もう少しで東日本大震災が起きた3月11日になるというのに、2020年の今年は連日コロナ、コロナの毎日で、先行きのわからない不安からか日本全国が、世界中が揺れている気がしています。
子どもたちにもそのしわ寄せが来て、春休みまでの臨時休校。
家で仕事をしているわたしも、子どもが家にいると仕事になかなか集中できなくて(言い訳)つい手に取ったのが、コミックです。こういう心せわしいとき、活字だけの本がなかなか頭にすんなり入ってこない気がするのはわたしだけでしょうか…(歳のせい?)
読んだのは、「リウーを待ちながら」という医療サスペンスもの。山下智久さん主演のドラマ「インハンド」の原作漫画を連載中の朱戸アオ先生の作品です。
講談社の青年誌「イブニング」で連載され全3巻で完結しています。
なぜ今このコミックを手に取ったのかというと、ネットで話題になっていたんですよね。内容が今のコロナ騒動とリンクするとかで。巻数が多かったり連載中のものだと続きが気になって読みすぎたりするので、手に取るには全3巻はちょうどよかったです。
もともと、現実逃避もかねてコミックの世界に没入するのが好きなわたしですが、この作品を今読むと全く現実逃避にはならなかったですね…
3巻の帯に書かれている「ああ、きっと、日本ならこうなる…」という言葉通り、今の日本の現状が描かれているのかと思うくらいリアルすぎるストーリーで、読み進めていくにつれ「はぁぁ…」というため息ばかり出ちゃいました。いや、実際にはもしかするとコミックの内容以上のことが今起きているのかもと。
でも、最終回まで読みましたが、結末は希望の持てるエンディングでしたよ。
作中には印象的なセリフがたくさんあって、ネタバレも含みつつ、感想を書いていきたいと思います。
リウーを待ちながらのあらすじ
S県横走(よこばしり)市。
富士山のふもとにあるその小さな町で、中央アジア・キルギスから帰国した自衛隊員が突然吐血し、女性内科医師・玉木涼穂(たまきすずほ)が勤務する横走市中央病院に運ばれる。
その自衛隊員は一命をとりとめるも、共に治療に当たった看護師・鮎澤を含め、同じような症状で運ばれてきた患者たちは次々に死亡する。そして、鮎澤の娘・潤月(うづき)も発熱するなど、新たな感染者が続発する。やがて、謎の病気の原因が、「悪魔の菌」=「ペスト」であることが判明。
懸命に治療に当たる玉木たちだったが、やがてペストが抗生物質の効かない致死率100%の「新型ペスト」に進化していることがわかる。
自衛隊の医官・駒野の協力や、現地入りした国立疫病研究所の職員・原神の迅速な働きかけにより、政府は「緊急事態宣言」を発令し横走市は封鎖される。
小さな町に取り残され、ワクチンや治療薬も見つからないまま、助からない命を懸命に救おうとする決死の玉木たちの戦いは、ただの敗北であり、絶望でしかなかったのか…
「リウーを待ちながら」の感想
タイトルにある「リウー」とはカミュの小説「ペスト」に出てくる人物で、「ペスト」はこの作品のベースにもなっています。
「ペスト」の内容にも詳しく触れたいところですが、ただの主婦のわたしには無理なので本当に個人的に感じた感想を率直に言うと、それはこの物語は現実に似ていて、でもリアルではないということ。
今現実に起きている新型コロナウイルスによる騒動と、「リウーを待ちながら」の新型ペストによって起きていることは、似ているようで大きく違っていると、わたしは感じました。
この作中で起きているように現実が進んでいるところもありますが、より過剰にというか、もっと良くない方へ進んでいると感じる部分があるからです。
致死率100%の新型ぺストによる突然の別れが切ない
抗生物質が効かないように進化した新型ペストによる致死率は100%なので、作中ではどんどん新型ペストに感染した人が確実に死んでいきます。
どんどん患者が運ばれ、まさにパンデミック状態。その描写はスピーディーで淡々としているので読んでいる側もマヒしてしまい、当たり前に感じてしまうことに気づいた時、とても恐ろしかったです。
ただ、このような状況に絶望しながらもあきらめずに立ち向かっているのが、主人公の玉木先生をはじめとする医療チームのスタッフ、国立疫病研究所から現地に赴いて来た原神先生たち。
玉木先生は、はじめのうちこそ患者を生還させるべく全力で治療に臨みますが、その甲斐むなしく亡くなっていく現状に、ボロボロになって絶望していきます。その中でも、わずかな希望を捨てず、死に絶えつつある患者さんに対しても玉木先生は自分にできる最大限の対応をするのです。
特に個人的に胸にグッとくるエピソードがありました。瀕死の母親が共に受診した5歳の息子がどこにいるのか玉木先生に尋ねます。
この時の状況は、まるで野戦病院。自衛隊が建てた医療テントが屋外にずらっと並べられ、中にはたくさんの患者さんがいる状態です。
玉木先生はなんとかその息子を探し出し、母親と一緒のベッドに寝かせます。その後の親子は…いわずもがなです。つい自分と息子を重ね合わせてしまいました。こんなの切なすぎる。
小さい子どもとその母親も、結婚したばかりでこれからをともに生きていくことを誓った愛する妻も、赤ちゃんをワンオペで育てる母親も、反抗期の一人娘の居るシングルマザーも、衝突しつつも共に治療に当たった上司も、新型ペストが容赦なく、誰にも平等に命を奪っていくさまは、かなり読んでいてつらかったです。
その人その人にストーリーがあって、自分ももし大切な人の命が予期せぬ菌やウイルスに、ある日突然奪われてお別れしないといけないとしたら?…そう想像せざるを得ませんでした。
日常生活でパニックになる人の姿が描かれない理由
このように新型ペストが100%人を殺す感染症であるのにも関わらず、普通の人々が感染におびえパニックになる様子はあまり描かれていません。これはなぜなのか。
考えてみると、平和な毎日を送っていたところにある日突然あらわれた姿の見えない敵に、どう抗えるでしょう。
それもものすごいスピードで横走市民を襲ってきたわけですから、家族も本人さえも何が何だかわからないまま、亡くなってしまったからでは?と思います。実際、登場人物が身近な人の突然の死を受け入れられないという描写も出てきます。
第2話という割と早い段階で正体がペストだとわかり、疫研でペストの研究をしている原神先生が現地に入ったところで、スムーズにことが進み、知事による「緊急事態宣言」によって政府が動いて横走市自体が封鎖されます。
この辺、めっちゃリアルです。わたしは感染者が多く、いち早く緊急事態宣言が出た北海道に住んでいるのですが、封鎖こそされてませんけど北海道は外出自粛が続きますし、今後法案が成立すれば外出禁止になるなんて声も聞くくらいなので、これから封鎖に近い状況になってもおかしくないわけです。それは本当に怖いなと思っています。
横走市封鎖よって起きたのは、感染源であるとして横走市民へのあからさまな差別行動、SNSでの誹謗中傷、風評被害などです。間接的に、そのことによって本来起こらなくてもいい悲劇も起きます。
仲介役があらわれるほど市外に脱走しようとする人がいたりもします。当事者へ向けられた悪意が広がるさまは、今の日本でも同じような状況になっている感覚はすごくありますよね。悲しいことですが。
それにこの事態は、東日本大震災の福島原発事故の時の現象にもすごく似ている気がします。福島の人たちは本来しなくてもいいはずの避難生活を強いられたり、いわれのない差別を受けたりしましたが、それは日本や海外を含めて、その土地に住んでいない者からです。
いまでも忘れられませんが、北海道でも被害はあったものの、わたしの住んでいる地域は何も影響がなく翌日から普段と変わらない生活を送っていました。パニックになんてならなかった。テレビの画面から流れる被災地の映像に心はかき乱されたけれども、普通の生活は送ることができた。
これは、自戒を込めてですが、結局、どこか他人事だったからではないかと思っています。
コロナ騒動の今日本で起きている現実は…
今の現実であるわたしたちの生活はどうでしょう。
マスクが店頭から消える描写は作中にもありますが、食料品を買い占めたりとか、トイレットペーパーや日用品の奪い合いなんていう描写はありません。
封鎖された横走市でもです。先ほども触れましたが、感染の意識がないままものすごいスピードでペストが広まってしまったからなのかもしれませんが。
作中で起きていることの残酷さに比べて、今現実に起きている新型コロナウイルスへの人々の反応の方がそれ以上で、自分個人のことしか考えていない人があまりにも多くて悲しくなります。
残念ながら他人事のように思っている人もいますし、その人の本性が表れている時がして、正直今はコロナより人の方がこわいです…
ラストは?ハッピーエンドとは言えないけど希望はある
話を本編に戻します。
横走市封鎖が功を奏して収束の気配を見せますが、なんとペストウイルスが進化して当初発生していたものとは違い、薬の効かない新型ペストに変化していることに気づきます。
これは、濃厚接触者を必要な食糧などが入った専用のキットと共に家に閉じ込めるという苦肉の策をとったことがきっかけで収束を迎えます。
この辺の詳しい内容のネタバレはやめておこうと思うので実際にコミックを読んでみてほしいのですが、ラスト終盤での別れもやっぱり切なかったです。
結果的には、収束するまで新型ペストの特効薬も治療法も見つからないままだったのですが、今回の新型コロナはどうなるのでしょう。今の時点で、同じように特効薬も治療法も見つかっていませんが、いろいろわかってきたこともあるようなので希望を持って今後に期待したいです。
新型コロナが蔓延する今、どう生きるのか
今って、一般市民のわたしたちにはわからないことばかりだし、専門家という人が言っていることもバラバラだったリ、何が正しいのか、何を信じればいいのかかがわからなくなっているから、不安なんですよね。
そして一番は、いつ自分がコロナにかかるかわからないという不安。これは老いも若きも、格差も関係なく平等に。自分だけ特別、なんてことは絶対にないわけです。
でも確かなのは、作中でも描かれている通り、未知のウイルスに対し絶望と希望を抱えながらも最前線で治療に当たっている医療者たちや研究者たちがいるということ。
他にもわたしたちのために動いてくれている人はたくさんいるということです。
今の状況で自分はどう行動するべきか、わたしは悩んでいました。でも、この作品で出てきたいくつかの印象的な言葉から、ひとつの答が見えた気がしています。
・「ペストと戦う唯一の方法は誠実さということです」(地域FMから流れてくる「ペスト」の一節)
・「明日死ぬかもしれないのは誰だって同じ」「だから今を楽しむのが一番さ」(母を感染で亡くし、自らも新型ペストに感染し自宅で隔離状態にある潤月に、病院の何でも屋であるカルロスがお菓子の差し入れを持って来た時にかけた言葉)
・「希望を持ちすぎるな 世界に期待しちゃいけない」「この世界にはコントロールできる事とできない事があるんだ。もっとあきらめながらがんばらないと続かないぞ」(玉木先生の亡くなった父の言葉 )
今回の新型コロナはこわくないと言ったらうそになります。
自分自身肺炎の既往歴があるのでもし感染したら肺炎になるかもしれないし、子どもたちはもちろん、夫や家族、高齢の親や、大切な人はもちろん、まわりにとって自分が感染源になるのは嫌です。
でも。
今の状況は誰も望んだわけじゃないから、誰も悪くない。
だからわたしは誠実でいようと思う。こういう時こそ自分にも周りにも誠実に。
楽観はしないけど、悲観しすぎずに、できるだけの予防をして、自分のできることをせいいっぱいやるだけ。
そして限りある今を大切にしてできるだけ楽しく生きていたい。
あ、これ、震災の後にも思ったことだったと、今気づきました。なんだ自分、ブレてないや。でもすぐ忘れすぎなのは反省しなきゃです。
まとめ
調べてみると「リウーを待ちながら」はベースとなる「Final Phase」という漫画の拡大版ということで、作者がその話をもとに、当時描き切れなかったエピソードなどを加えたストーリーとのこと。やはり、東日本大震災を経験したこともエッセンスとしてあるようです。
今回は新型コロナウイルスが問題となっていたこともあって、タイムリーに現実とリンクした内容ではあると感じましたが、すでに現実も参考に描いていた作品だったんですね。カミュの「ペスト」もそうですが、人間の本質というものは、本当に変わらないものだということもつくづく実感しました。
「リウーを待ちながら」は登場人物も魅力的で、あっという間に読み終えてしまいました。興味のある方はぜひ一読をおすすめします。
最後に、今回新型コロナ肺炎でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りしつつ、事態の一刻も早い収束を願ってやみません。
どうかみなさんご自愛を。
他にも読んだ漫画の感想で「この世界の片隅に」についても書いています。

今回はリウーを待ちながらのネタバレを一部含んだ感想を書きましたが、今後も読んで面白いと思ったおすすめのマンガや小説、絵本なども紹介していけたらと思います。
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